BtoB契約と知財契約

BtoB契約と知財契約

私は、以前は各種のプラントや生産設備の設計、製造及び据付けを主要な事業とするBtoBビジネスのメーカーに勤めていました。事業部門に配属され、入社から数年は調達部で海外ベンダーとの仲介貿易(プラントの構成機器をA国の会社に発注し日本を経由することなく直接B国に輸送する取引)に従事しました。その後、営業部門で主として輸出案件を担当しました。

調達、営業のいずれの業務においても、海外との取引では相手方と内容・条件を詳しく取り決め、合意した内容を書面の契約にまとめることがたいへん重要です。国内取引の場合は業界の慣行や通念がありまた過去から継続して取引してきたという信頼関係が存在する場合もあり、それらが契約の規定を補充するので契約書は比較的シンプルな内容になります。これに対して、海外企業との間にはそのような契約を補充する要素は期待できませんから、個々の案件において契約条件を詳細に取り決め書面化する必要があります。プラントの輸出に係るEPC契約(プラントの設計(Engineering)、機器の調達(Procurement)、建設(Construction)を一括して請け負う契約)ではコマーシャルパートだけでも百ページ以上になることが通常でした。

その後、事業部門から知的財産部門に異動し、共同研究契約、ライセンス契約および特許共同出願契約などの知的財産に係る契約(以下「知財契約」といいます)に従事しました。会社は機械メーカーでしたから、対象となる知的財産は主として特許、ノウハウ及び図面・書類・プログラム等の著作物でした。

事業部の契約も知財契約も事業者間の契約という点では同じ性格でしたが、知財契約には特徴的な点がありました。それは、事業部の契約が製品という有体物を対象とするのに対して、知財契約は無体の財産である情報が対象であることから生じる相違でした。

契約の対象が一つの有体物であれば、その物品は一個しか存在せず、その所有者しかその物品を使用・収益・処分することができません。これに対して、知財契約の対象は知的財産という無体の情報であり、それは容易に複製し伝達することができます。したがい、知財契約では、①対象となる知的財産がどの当事者に単独で帰属するかまたは当事者が共有するか(共有する場合はその持分割合の決定を含む)という取り決めに加えて、②対象となる知的財産をどの当事者がどのような条件で実施できるかを規定しなければなりません。つまり、知財契約はまず権利の帰属を取り決め、次いで実施の条件を取り決めるという二段階の構成になります。また、共同研究契約などの場合には、その当事者がユーザー(顧客)とメーカーであるか、メーカー同士か、メーカーと大学や公的機関であるかなどいくつかの類型があり、各々のケースに応じて、適切な契約条件を取り決める必要があります。

事業部の契約にも、対象となる物品の設計・製造の過程において改良や発明などの知的財産が生じた場合の取扱いに関する条項を設けることがあります。

皆さまが知財契約や知的財産に係る条項を扱う場合には、権利の帰属と実施の条件という二段階の構成で規定することを意識したうえで、その内容を交渉し取り決める必要があることにご留意ください。

高橋文雄